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黒い虹と気球

小説や漫画の本中心に感想を書きます (本によって発売直後に感想を書いている場合があります。ネタバレなどにはご注意ください)

『いまさら翼といわれても』: 感想

こんばんは、11月最後の更新になります。

 

とても久しぶりの米澤穂信さんです。

あれだけ『王とサーカス』を読むと言っておきながらやはり「古典部シリーズ続編」という煽りと早く読みたい欲に負けてしまいました。

古典部シリーズ」の続編はファンの人ほどではありませんが、密かに期待していました。ブログ主が『ふたりの距離の概算』を最後に読んだのはもう五年くらい前です...とても懐かしい。

もともと米澤穂信さんの小説はシリーズ物が多く、(私の知ってる限り「古典部シリーズ」、「小市民シリーズ」、「太刀洗シリーズ(太刀洗万智が登場する話)」の三つあります)どれも話の中身は勿論、登場人物の成長も同時に追いたくなるような作りになっています。

 

そのため今回の話も「古典部シリーズ」を知らない人は一作目の『氷菓』から読んでもらう必要があります。けれどアニメや漫画、最近では実写映画化などメディア化も多くされている作品なので、そこから知ってもらっても大丈夫です。

 

さて前置きはそのへんにして、感想を始めていきます。

 

いまさら翼といわれても https://www.amazon.co.jp/dp/4041047617/ref=cm_sw_r_cp_api_.BvpybZ0G78F0

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古典部シリーズ」は当初、ライトノベルとして作られていたこともあり、文章がとても読みやすいのが魅力です。それは本書『いまさら翼といわれても』でも例外ではありません。

それに加え、前作『ふたりの距離の概算』のような一つの話ではなく、複数の話が収録された短編集という形式になっています。

 

さて、その短編なのですが、全ての話を書いていくのも量的になかなか厳しいので、あらすじにしたあと、個人的に気に入った話を取り挙げて説明するという形を取らせていただきます。

 

・箱の中の欠落

とある日の夜、焼きそばを食べようとしていた折木奉太郎の元に福部里志からの電話がかかってくる。相談したいことがあると言った里志に夜も遅かったことからあまり乗り気ではなかった奉太郎だったが、里志の様子がいつもより沈んでいるのが電話越しで分かり、仕方なく二人の家の近くの橋で落ち合うことに。福部が持ち出してきた相談事は、その時から数時間前に起こった生徒会選挙の投票のことだった。

 

・鏡には映らない

中学のクラスメートと久しぶりに再会した伊原摩耶花は中学三年の頃、卒業制作で鏡を作った時の頃を思い出す。鏡を作ると言っても、実際は周りのフレームを彫刻するもので、クラスではそれぞれどの部分を担当するかグループによって決められていた。摩耶花たちは懸命に彫り進め、満足のいくものを作ったが、奉太郎は担当された部分のパーツをいかにも手抜きな出来ばえで提出し、結果的にクラスメイトから激しく非難されることになる。しかし高校の一年間奉太郎を見てきて「あいつは手抜きをするような人ではない」と思うようになった摩耶花は、その時の真相について振り返り、考えるようになる。

 

・連邦は晴れているか

いつものようにのんびり部室で会話をして過ごしていた四人。そんな中ヘリコプターが高校の上を通過する。奉太郎はそのヘリを見ながら昔、中学の教師がヘリ好きだったことを思い出す。同じ中学だった摩耶花もこのことを覚えており同意する。しかしそれ以降その教師はヘリの話題を持ち出さなくなり、すっきりしない何かが残った奉太郎は、古い新聞を調べるため図書館へ向かう。

 

・わたしたちの伝説の一冊

摩耶花の所属する漫画研究会は読みたい派と自分で描いてみたい派で大きく分立しており、河内先輩が部を辞めてからはその関係は悪くなる一方だった。そんな中、描いてみたい派の部員が摩耶花に部費を使って同人誌を描こうと持ち出してくる。どうやら読みたい派に対して既成事実を作って対抗したいらしい。部員全員の許可なしに部費を使うことに最初は抵抗する摩耶花だったが、漫画を描きたい欲求に負け、その同人誌作りに参加することになったのだが...

 

・長い休日

その日の奉太郎はやけに調子が良かった。それは朝に自分だけでなく姉の分の朝食を作り、良い天気だからと外に出かけ、長い階段を登って神社に参拝するほどだった。そして偶然にもその神社は学校の同級生である十文字かほの神社であり、その日は千反田えるもそこに居たのだった。調子の良い奉太郎はえるが手伝おうとしている掃除を自分も一緒に手伝うことを名乗り出る。その掃除をしながらえるは奉太郎に「どうして『やらなくても良いことはやらない、やらなければならないことは手短に』するようになったのかを尋ねる。

 

・いまさら翼といわれても

市民会館で行われる合唱会に参加することになったえる。しかし集合していておかしくない時間になってもえるは会館に姿を見せなかった。心配になった摩耶花は奉太郎にえるの捜索を依頼する。奉太郎は前日に部室でえるが進路のことについて書かれた本を読んでいたのを知っていた。

 

以上6編になります。

 

【注意】ここから先はブログ主のネタバレを含む感想となっています。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

同じ短編集の『遠回りをする雛』と比べてとても内容の濃い6編だったと感じています。

本来の趣旨は最後の「いまさら翼といわれても」なのかもしれませんが、個人的に一番心に残ったのは「わたしたちの伝説の一冊」ですね。

あえてあらすじもこの話は少なめに書きました。動きのあったことは漫画研究会のことだけなんですがそれだけじゃない、この話は色々考えさせられることが多いです。

話の最初の方に奉太郎が中学一年の時に書いた読書感想文の話題が上ります。タイトルは「走れメロスを読んで」。あの奉太郎が男の友情物語を読むとは笑。想像出来ないなと思いながら感想文を読んでみると...

「え、この話ってそう読むものなの?」

もしかしたらこの短編集で一番驚いたのここなんじゃないかってくらい衝撃を受けました笑。

こんな捻くれた考え方を中学一年でする奉太郎も凄いなと思いつつ(まあ小説なので、現実じゃないので)、話は漫画研究会のことに移り。

クドリャフカの順番』の文化祭での漫画研究会はギスギスしてたな...と思っていたのにそれ以上に関係が悪化していることにがっかりさせられました(「河内先輩」って誰だったっけとなったのは自分だけだろうか、ものすごく昔の人のように感じる)。

純粋に漫画を描きたい摩耶花は勢力が二分する漫画研究会を何とか和解できないかと検討するのですが、結果は虚しく、最終的には同じ描きたい派の人間にもいいように使われていたことが分かり、何ていうか「酷い」としか言えません。

この話だけじゃなくて他の話にも言えることですが、「古典部シリーズ」、性格の悪い連中が多いですよね笑(本書でも「箱の中の欠落」、「鏡は映らない」「長い休日」にも同じく嫌な連中が出てきます。ほとんど全部だ笑)。その分登場人物たちの考えていることが浮き彫りになるっていうのもあるのかもしれません。今回も同じで、摩耶花に感情移入されっぱなしでした(途中泣きそうになりました)。

それだけに、最後に漫画研究会を辞める決心をしたのには、よし!って心の中で叫んでしまった。もうあんな空気の悪い所へは行かなくていい!って。これからも頑張れ摩耶花!

あとはそうですね、表題にもなっている「いまさら翼といわれても」にも少し触れさせていただきます。この話は今後の千反田さんにとっても大きな起点となる大事な話です。千反田家の跡継ぎという重圧から解放されたえるがこれからどうすればいいのか、その苦悩が伺えるものとなっています。もしこれが映像化されたら「バレンタイン事件」の時みたいな暗いえるを見ることになるんだろうな...見てみたいような見たくないような複雑な感じです。

それにしても折木くん、今回の話はどれも積極的に動く部分が目立ってて「やらなくてもいいことはやらない」精神が無くなってきてる気がするんだけど、どうなんだろう。長い休日が終わり始めて、奉太郎自身も成長しているって解釈で大丈夫なんだろうか。もしそうなら喜ばしい限りです笑。

 

ということで『いまさら翼といわれても』でした。いやー「ほろ苦い青春群像劇」を謳う古典部シリーズも今回は「灰色の青春群像劇」だと思いましたね笑(良い意味で)。最初は黒くても構わない、徐々に白くしていけばきっと良い未来がある。そうやって進んでいくための大きなスタート地点に立った所なんだと思いました。次巻は何年後になるのでしょうか...気長に待っています。

 

(追記)

読んだ方に聞きたいのですが、「一年生は来ていない」っていう摩耶花の語りは、古典部に新入部員が入ったということなんでしょうか。それとも『ふたりの距離の概算』の大日向のことを言ってるんでしょうか。曖昧な表現で書かれていたので勘違いしていたらごめんなさい。(更に追記分) 奉太郎でなく摩耶花の間違いでした。